大人のコラム 第1回 「美術館」

工藤さん

−−はじめに、学芸員さんは主にどのようなお仕事をしているのですか?

よく、学芸員というと展示室の中で椅子に座っている監視員と間違われることもあるのですが、展示室よりバックヤード(管理棟)で主に仕事をしています。

軸となる大きな仕事だと展覧会(企画展)業務全般です。コンセプトや内容の発案・企画からはじめ、どのような作品をどこから借りてくるかを検討します。

そしてその作品を持っている人、または美術館と交渉し、現場にも足を運んで実物をチェック。

実際に展示する際のレイアウト等ももちろん考えます。横須賀美術館では年に企画展を6回開催していて、学芸員が順番に1つの企画展を担当していきます。

1つの企画展を終えると次に自分が担当する企画展は約1年後です。それでも企画展の準備は大変で、時間がかかるため常に次のことを考え、同時進行しています。

学芸スタッフは8人いますが、企画展の他に所蔵品展も担当しますし、教育普及専門のスタッフもいます。展覧会の他には教育普及も大事な仕事です。

初めて美術館に来た子供達は美術館で何をしていいか分からない、なにが面白いかわからない。子供だけでなく、大人でもそのような方はたくさんいらっしゃると思います。

そんな人たちにもっと美術館をわかりやすく知ってもらう活動です。


私が担当している具体的な内容としては、ギャラリートークやワークショップですね。展示されている作品の解説であったり、また講師を招いて、

ある絵画が描かれた同じ技法を実際に体験してみることなどです。気軽に美術に親しんでもらうのが目的です。

そして、もう一つ大事な仕事が所蔵品(常設展に展示している作品)の保存・管理です。長期間展示したままだとやはり傷みますし、

また時間の経過と共にどうしても作品は劣化していきます。美術館にある以上その管理は我々の責任ですので、 定期的に飾る作品を入れ替えたり、

傷みがあれば修復の手配をしたりして、後々長くその作品を楽しんで頂けるようにすることが大事な仕事のひとつです。

所蔵作品は全てを同時に入れ替えることはせず、コンピュータで管理して部分的に入れ換えています。また、作品が寄贈などで増えますので、コンピュータでデータ化し、

全てを把握出来るようにしています。

−− 私も監視員の方を学芸員だと勘違いしていた者の一人です…では、工藤さんが学芸員になろうと思ったきっかけを教えていただけますか?

大学生の頃にロンドンの大英博物館に行ったんです。その中で、並べられた石器を見ていてふと、この展示も何かの研究に基づいて、何か理由があってこのように並べられているんだろうなと思ったんです。

それを決めている人がいる。こういう仕事があるんだな、と。その時は学芸員という人がいることも知らなかったんです。それから日本に帰ってきて、その仕事を探し始めて学芸員という職業を知りました。

それがきっかけで学芸員の仕事に惹かれていき、自分もこの仕事をやりたいなと思うようになりました。

−− たぶん、普通の人は気付かないそういったところに気付くというのは、学芸員さんとしての才能があったからなのでしょうね(笑)

もちろん、美術が好きで博物館や美術館に行っていたのですが、特定の作家がすごく好きだからというような理由で学芸員になったわけではありません。

その大英博物館の時は、なぜかピンときたんです。私もそれまでは気付かなかったですよ(笑)

−−学芸員になるには資格が必要なんでしょうか?

資格の取り方にも色々あります。私の場合は大学の単位で取りました。もともと美術史を専攻していませんでしたが、授業は取れたので、単位をとりました。そういう授業を設けている学校は多いですよ。

−−そういわれてみると確かに自分の通っていた大学にもありました。では、美術館についてお伺いしていきます。まず一般的に美術館というと企画展と常設展に分かれていますが、その違いは何ですか?

大まかに説明すると、あるテーマやコンセプトを決めて、その趣旨に沿った作品で構成するのが企画展です。そのために所蔵家や他の美術館から作品をお借りしたりします。

常設展はそれぞれの美術館で所有している所蔵作品の展示になります。

横須賀美術館での所蔵作品は、油絵のデッサンなども含めて全部で4,500点くらいです。その中から常設展に展示しているのは150点程です。

−−4,500点もバックヤードに保管されているんですね。それではその常設展で展示している作品の収集はどのようにして行うのですか?先ほど寄贈されるとのお話もありましたが。

横須賀美術館の場合、収集の基準を設けています。

(1)横須賀・三浦半島ゆかりの作者の作品(2)横須賀・三浦半島を題材とした作品(3)海に関連した作品、そして(4)日本の近現代美術を概観できる作品にも注力しております。その基準に沿って収集しています。

−−では作品を展示する際のレイアウトなどについてもお聞かせ下さい。何か展示の順番やルールなどがあるのでしょうか。

順路については、人が自然に歩いて行く方向を意識しています。良く目に入る壁というのがあるんです。それを踏まえてお客さんが自然な流れで作品を見られるように順路を考えています。たとえば、作品を古い順に並べていった場合、単純にそれだけだとお客さんが違和感を覚えることもあるんです。

すごく小さな作品の隣に大きな作品が並んでいたら、見る位置を変えるために後ろにさがらなければいけませんよね。ですので、仮に古い順という原則を決めても、見やすさを重視して、多少順序を変更したりします。またすぐれた作品は良く目に入るところに並べます。そのようなことも考えて、展示するようにしています。

また、作品のサイズに合わせた場所を考えます。広い場所に小さい作品ではバランスが悪いですし、見る方としても疲れちゃいますからね。

廊下

−−確かに、美術館で絵を見ていて無駄な動きをとらされるということは少ないですね。では鑑賞のマナーについてお伺いします。私は海外の美術館で展示してある作品を来場者がカメラに当たり前のようにおさめていてびっくりしたことがあります。作品を写真に撮るのは禁止されていないのですか?

作品を撮っていいかどうかは、著作権が関わってきます。たとえばモナリザなど古い作品についてはもうすでに著作権がきれています。

そのため撮影可になっているのだと思います。近世以前の作品を扱う美術館ですと、著作権が切れているケースが多いですが、近現代美術を扱うと、

撮影できる作品とできない作品が混在しているので、管理が難しいために展示室では撮影不可としている場合が多いのではないでしょうか。

横須賀美術館も基本的には展示室内の撮影はできませんが、それ以外の場所であれば撮影は可能ですよ。

−−そうだったんですね。今度は作品についてですが、タイトルがある場合とない場合があると思うのですが、それはどのような違いがあるのですか?

作者によって様々です。タイトルをつけることによって作品の印象を決めてしまうこともあるので、つけたがらない方もいらっしゃいます。

作家の意思を基本的に尊重しますが、同じタイトルばかりですと、見る人にとっては分かりにくいので、 展覧会に出すタイミングで作家の方にタイトルをつけてもらうこともあります。

−−では額縁についてはどのように決めるのですか?

あまり目に入らない部分ですが、作者が拘っていることがあります。彫刻のようになっている華美な額もありますし、額やケースに入れずに裸(額無し)で見せたいという作者もいます。

作者がどのように飾りたいかを意識するようにしています。

−−タイトルだったり額縁だったり、作者の意向が大きく関わってくるんですね。

はい。作者によっては、ある時期は額縁に拘っていても、また別の時期では額縁はつけない主義になっていることもあります。企画展を担当する際は、そのような作者の細かい情報も調査します。たとえば作者の友達やご遺族に話を聞いたり、存命でない場合は新聞や写真なども探します。そのような調査をしていると、

こんな風に作品を制作していたんだとか、話を聞いて初めて写真からイメージしていた人物像とは全く違うんだなと分かることもあります。作品の見え方も変わってきますね。

−−口ひげとひょうきんな顔で有名な画家ダリも、実際は繊細でごく一般的な人間だったみたいですしね。

その絵自体は有名でも、どんな人が描いたんだろうと興味が湧く事がありますよね。来てくれるお客さんにも好奇心をもってもらえるように、資料や写真などをあわせて展示することもあります。作品を並べるだけでも展覧会は成り立ちますが、学芸員だから分かること、調査過程で気付いた小さいこともお客さんに楽しんでもらいたいです。

どのように見せるかが難しくもあり楽しいところでもあります。また、調査過程で今まで誰も知らなかった事を最初に発見した時はとても興奮します。

−−初めてなにかを発見した事は「教えたい!」って思いますもんね。

そのような新発見に興味を持つ方はやはり多いですね。また、現役で活躍されている作家の企画展だと、ご本人がどんどん盛り上がっていくことがあります。

最初の構想とは違ってきたり、より良くなっていくこともあります。ただしその反面、意図していない方向に進むこともあったりで大変なこともありますが(笑)

それをうまく調整するのもまた難しいけれど面白いです。自分の思っていなかった、考えも及ばないアイディアを作家の方から聞いて企画展を作っていくのはとても面白いですね。

−−なるほど、それが工藤さんの「情熱」につながるんですね。

私にとっては、そうかもしれません。同じテーマを扱っても学芸員によって企画展のみせ方というものが変わってくるんです。やはり人間ですからね。

作品によって共感するものやどうみせたいかが異なります。例えばその作者の功績をみせるために代表作を中心に構成するときがあります。またある場合には、作者がその代表作を作るに至るまでの経緯や模索であるデッサンなどを中心に見せます。

「この代表作はその結果なんです」と、見る人に伝えるのです。


学芸員によっては、あるいは企画の内容によってですが、研究に重点をおく人もいますし、子供が楽しめるような工夫が得意な人もいたり、タイプは本当に様々です。

−−それはとても興味深いです。オーケストラの指揮者に似ている気がします。古い楽譜を読み解いて、作曲家が何を意図していたのかを指揮者それぞれが解釈して、演奏として形にするというところが学芸員さんと通ずる部分があると思います。

そうかもしれないですね。 だから企画展は基本的に学芸員が1人で担当するんです。学芸員によって何を主張したいかが異なるから。自分で企画して、創って、そこが面白いんですよね。

−−指揮者が2人いたら大変ですしね(笑)。やはりご自身が担当する企画展では来場者の反応が気になりますか?

はい、やはり気になって展覧会中、お客さんや様子を見にいくことも多いです。どういうところに興味があって足を止めるのかとても関心があります。

直接感想を言われることはほとんど無いですが、お客さんの感想を監視員から聞いたり、アンケートで知ることもできます。自分の拘った部分についての感想を頂くと嬉しいですし、「いつもと雰囲気が違っていて楽しかった」というような感想を聞くとやっぱり頑張った甲斐がありますね。


学芸員としてもちろん注力するのは作品選びやその展示方法など企画そのものですが、思ってもいないようなことを指摘される事もありますよ。イスが少ないというご意見もありました。

企画展の内容や季節によって来るお客さんが違うので、そこをもっと配慮しなくてはいけないとも思っています。夏は親子連れが多かったり、普段は女性の2人組みが多いなどの傾向もあります。

現在開催している私が担当の企画展「街の記憶 ―写真と現代美術でたどるヨコスカ 」(6月30日まで)は、男性が意外に多いです。

−−まさに企画展という1つの舞台を創り上げる監督なんですね。とても素敵です。次の企画展のアイディアも常に考えているとの事ですが、その一部を教えて頂けませんか?

そうですね〜。色々なアイディアややりたい事があります。


ですが、ここでは内緒にしておきます(笑)。ぜひ楽しみにしていてください。

−−分かりました(笑)。では、今度は横須賀美術館に絞ってお話を聞かせてください。まずは、横須賀美術館ならではの楽しみ方とは?

まずはなんといっても、目の前に広がる海と広い芝生は横須賀美術館の特徴です。その最高のロケーションを味わうことが出来るレストランもありますしね。

また横須賀美術館は観音崎公園内に位置するので、少し山を登ると砲台跡があったり、近くにはパワースポットで有名な走水神社もあります。

それから美術館としては珍しいのですが、購入日であればそのチケットで何度も再入場が可能なので、一度美術館で企画展を楽しんだあと、山を登って海を散歩して、レストランで一息ついてそれからまた美術館の常設展を見たり、といった楽しみ方ができます。

自然と一体化した美術館ともいえるので、この辺りで一日かけて遊ぶのもいいと思いますよ。横須賀市街地からそれほど遠くはないですからね。


また展覧会は基本的に有料ですが、展覧会を見なくても楽しめるイベントも行っています。夏には外の巨大スクリーンで映画を上映する野外上映会やコンサートなど。

そして図書室もあります。普通の図書館とは違い、画集や美術に特化した本など普段は目にする事が出来ない本ばかりなので美術が好きな方にはたまらないと思いますし、これから美術に触れてみたいという方にもおすすめです

−−美術館というと少し敷居が高いと思う人や行くきっかけが無いという人もいると思います。「今日は美術館へ行くぞ」という感じで気構えず、まずは場所そのものも楽しんでほしい、ということですね?

そうです。散歩がてら来てほしい、気軽に親しんでほしい、という思いがあります。建物自体も建築家の山本理顕さんに手がけていただいたのですが、場所を活かした設計になっているんです。周りの木々や自然の景観を邪魔しないように、

建物の半分を地下にして全体を低くしていたり、すぐ前が海なので丸い窓をつけて建物の中から海や船が見えるようにしていたり、工夫がいたるところに施されています。

−−本当に、目の前が海のこのロケーションは最高ですね。でもこれほど海が近いと塩害対策も大変なのでは?

もちろん潮風は作品によくないので塩害に留意した設計になっています。美術館に入ってくる時に自動ドアがあったと思いますが、3枚開けないと入れないんですね。

正面のドアを抜けたら今度は右手にドアがあり、さらにその先の左手に3枚目のドアがありましたよね。風除室という空間を設け、さらに動線がジグザクになっていて風がダイレクトに抜けない仕組みなんです。

また、建物自体にも工夫があります。ダブルスキンという設計で、外からみると良くわかりますが蚕のように白くて角をとった建物を、透明なガラスの箱で覆っているんです。

また塩害以外にも、虫が入ってきてしまうといけないので生花はお断りしているんです。

ダブルスキン構造

−−以前来た際にこの建物について変わった作りで素敵だなと思ってはいましたが、美と機能を兼ね備えた”デザイン”だったんですね!!今回お話をたくさん伺ったことによって、美術館に対する見方ががらりと変わりました。ところで、今回の様に学芸員さんがインタビューに答えるという事は他でもあるんですか?

企画展の内容について聞かれることはありますのでもちろんお答えしますし、ギャラリートークという場も設けています。

学芸員の仕事について話す機会は、職業体験の学生の方に対してはありますが、今回のように大人を相手に話す事はありませんでした(笑)

−−(笑)。そうですか。でも、大人になるとそういう機会が減りますし、今さら聞けないという思いも持ってしまいます。私ももちろんですが、大人のためにこのような貴重な機会設けて頂きありがとうございました。

どうもありがとうございます。私もギャラリートークなど担当することもあるので、是非お気軽に遊びに来てください。

−−最後に、学芸員の工藤さんにお聞きしたいのですが、ずばり、「大人」とは何だと思いますか?

一所懸命になれる人ですね。それでいて客観的な視線ももつ人。熱い心とクールな目をあわせもっている人だと思います。

横須賀美術館

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